第1回 新しい英語教育の姿

皆さん、こんにちは。国際教養大学の町田智久です。私は小学校英語教育の研究をしていて、各地域の教育委員会や企業と協働しながら、小学校の先生方の英語の指導力向上を目指した研修を考えたり、実施したりしています。小学生の皆さんが使っている英語の教科書も書いています。今回から6回 にわたって、新しい英語教育の姿や英語のコミュニケーション能力育成のポイント、さらには公文式英語の強みや効果的な英語の学習方法などについてお話をしていきます。どうぞよろしくお願いします。

<町田智久先生のプロフィール>
国際教養大学専門職大学院教授。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校大学院で修士号(英語教授法)及び博士号(初等教育)を取得。
2022年度フルブライト客員研究員(ジョージ・メイソン大学)。
各地の教育委員会等と協働して教員研修を開発・実施。
近著に『小学校英語の考え方』(大修館書店)、『英語にぐーんと強くなる』(監修)(くもん出版)。

今回のテーマは、2020年から新しく始まった小学校の英語教育についてです。現在、英語は世界中で最も使われている「国際コミュニケーション言語」(*1)です。国際会議や海外の学会では、英語で話し合いが進められることが多いです。インターネット上の使用言語も英語が49.5%(*2)と最も多く、2位のスペイン語(5.9%)を大きく引き離しています。また、最近では英語で授業を行う大学が国内でも増えています。私の勤める国際教養大学(秋田県)では、全ての授業を英語で行っています。東京大学でも、2027年に創設する新しい学部では授業を英語で実施するとしています。このように、英語は学習や仕事で実践的に使う「技術」として、身につけていくことが求められています。

しかし、これまでの英語教育では単語や文法を覚えることが中心で、英語を使う場面が少なかったため、何年も英語を学習したのに「英語が話せない」「英語が苦手」という人がとても多いです。実際に日本人のTOEFL iBT®の平均点は、アジア諸国31ヶ国中29位(*3)と低迷しています。このような状況から抜け出し、日本人の英語コミュニケーション能力を伸ばそうということで、国でも小学校から英語教育を始めることにしました。具体的には、小学校3・4年生では週に1時間、「聞く」「話す」を中心に英語を学習します。5・6年生になると英語の授業は週に2時間になり、「聞く」「読む」「話す」「書く」の4技能を扱います。子どもたちに身近なこと(学校・家庭・友だち・遊びなど)に関するコミュニケーションを中心に学び、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)の初級レベル(A1)の到達を目指します。CEFRは世界共通の言語運用能力を測る指標です(下記図参照)。

<CEFR及びTOEFL®と英語能力の到達目標>

「CEFR level explained」(*4)及び「TOEFL Primary®/Junior®とは」(*5 & *6)を活用し、筆者が作成

大切なのは、これは以前の中学校英語の前倒しではないということです。これまでの英語教育は、「単語や文法を正確にきちんと覚える。“いつかは”使える英語」という、つらく苦しい修行のようなものだったと思います。しかし、新しい英語教育は、「コミュニケーションをしながら覚える。“今”使える英語」という楽しいものです。学習方法も、単独での暗記作業から、クラスメイトとのやりとり を通した共同作業へ変わってきていますし、知識を問う一発勝負のテストではなく、運用能力を見る複数回のパフォーマンステスト(スピーチや発表、やりとりやインタビューを活用した評価方法)へと変化しています。
グローバル社会で生きることになる子どもたちは、成長するにつれて英語を使って専門科目を学び、多様なバックグラウンドを持つ人たちと意思疎通をし、自分の意見を主張することが大切になります。小学校ではその第一歩として、自分の言葉で身近な事柄について簡単なコミュニケーションができるようになれば十分です。英語学習は苦しい修行ではありません。楽しんで学んでいくことで、その力が高まっていくのです。

<注>
*1: The British Council. (2013). The English effect. The British Council.
*2: W3Techs. (2023). World Wide Web technology surveys: Content languages. Retrieved from https://w3techs.com/
*3: Educational Testing Service (ETS). (2022). TOEFL iBT® test and score data summary 2022. Retrieved from https://www.ets.org/pdfs/toefl/toefl-ibt-test-score-data-summary-2022.pdf
*4: Breen, D. (2024). CEFR level explained. Retrieved from https://gowiseward.com/blog/cefr-levels-explained
*5: GC&T. (2017). CEFR A1未満~B1の英語力を測定TOEFL Primary®とは. Retrieved from https://gc-t.jp/about_test/primary/
*6: GC&T. (2017). CEFRレベルとも連動のTOEFL Junior Standard®とは. Retrieved from https://gc-t.jp/about_test/junior/