皆さん、こんにちは。前回は新しい英語教育の姿について述べましたが、今回は英語を効果的に使う上で前提となる力についてお話しします。現在、世界では気候変動や地域紛争、日本でも少子高齢化や都会と地方の格差など、簡単に解決できない社会問題がたくさんあります。前回も最後に少し書きましたが、子どもたちはよりグローバル化し、情報化が進む社会で英語を使いながら、様々な問題に取り組むことでしょう。
<町田智久先生のプロフィール>
国際教養大学専門職大学院教授。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校大学院で修士号(英語教授法)及び博士号(初等教育)を取得。
2022年度フルブライト客員研究員(ジョージ・メイソン大学)。
各地の教育委員会等と協働して教員研修を開発・実施。
近著に『小学校英語の考え方』(大修館書店)、『英語にぐーんと強くなる』(監修)(くもん出版)。
例えば、私の勤める大学では教員の半数以上が外国人ですし、学生も4人に1人が留学生です。そこでは課題に取り組むために、多様な文化背景を持つ人たちと一緒に英語を使って学んだり、働いたりする必要があります。そのため、様々な考え方に耳を傾け、自分の意見を分かりやすく説明する力が必要です。コミュニケーションの手段も、直接会って英語で話すだけでなく、英語でメールのやり取りをすることもあります。このように、社会環境の変化に伴って、現代を生きる子どもたちには求められる力も多様になってきています。
アメリカではいち早くこの動きに反応し、子どもたちが将来成功するのに必要な力として「21世紀型スキル」(*1) を2011年に提唱しました。その後、改良されて2019年に最新版が発表されました(下図参照)。21世紀型スキルは、主要科目(3Rs:読み、書き、計算)、ライフ・キャリアのスキル(柔軟性、適応力、主体性、異文化理解能力、責任感など)、学習と変革のスキル(批判的思考力、コミュニケーション力、協働力、創造力)、情報・メディア・テクノロジーのスキル(ICTスキルなど)で構成されています。
アメリカの教育学者達 は、これらのスキルを「すべての教科に組み入れて指導すべきだ」(*2)と主張しました。実際に、アメリカでは21世紀型スキルを小学校から授業に取り入れている地域も多く、OECDのPISA(国際的に行われている学習到達度調査)では子どもたちの読解・数学・科学のスコアが上昇したり、自己・対人能力が向上したり、高校の卒業率が高まったりという効果が出ています(*3)。
<21世紀型スキルの図>
- (Battelle for Kids, 2019,Framework for 21st Century Learning: 筆者による日本語訳を追加)※3Rsとは読み(Reading)、書き(Writing)、計算(Arithmetic)指します
日本でも国立教育政策研究所が2013年に21世紀型スキルの重要性を報告し、現在使われている学習指導要領にも反映されています。その中では、「何を知っているか」から「何ができるか」への変革が求められています。私が書いている小学校の教科書でも、知識偏重から脱却し、クラスメイトとのやり取りを通して創造的に英語で意見を言う問題がちりばめられています。そこでは、子どもたちはどのように学ぶかという「学び方」が重要になってきます。英語の学習にしても、これまでのように「先生の話を黙って聞いて、一人で単語帳を見てコツコツ覚える」という方法ではなく、「クラスの友達とそれぞれの単語を使う場面を設定して、一緒に使いながら覚える」というアクティブ・ラーニングの学習が求められています。現代では、大学の授業で黙って先生の言うことを聞いているだけの学生は、良い成績を取ることはできません。「フリー・ライダー」(Free riders:授業のただ乗り)と呼ばれ、他人の意見を聞いているだけで自分の意見を言わず授業に貢献しない人とみなされます。これは私がアメリカに留学した15年以上前から、授業中に教授がよく言っていたことです。「いかに授業に貢献するか」「いかに他の学生と協働して学ぶか」ということは、グローバル社会での学習スタイルの基本です。子どもたちは、そのような21世紀型スキルを身につけた上で英語を使うことが求められています。
<注>
*1:Battelle for Kids.(2019).Framework for 21st century learning. P21. Retrieved from https://static.battelleforkids.org/documents/p21/P21_Framework_Brief.pdf.
*2:Larson, L. C., & Miller, T. N. (2011). 21st century skills: Prepare students for the future. Kappa Delta Pi Record, 47(3), 121-123.
*3:Zeiser, et al. (2014). Evidence of Deeper Learning Outcomes. Findings from the Study of Deeper Learning Opportunities and Outcomes: Report 3. American Institute of Research.