皆さん、こんにちは。今回は、英語のコミュニケーション能力を伸ばす上で大切なポイントをお話しします。英語には「聞く、読む、話す、書く」の4技能があります。「聞く」と「読む」の2技能は、音や文字で情報を受け取るということで「受容能力」と呼ばれ、「話す」と「書く」は情報を発信するため「発信能力」と呼ばれています。よく「4技能をバランスよく伸ばしましょう」と言われますが、実は4技能を同じように伸ばすのはとても難しいです。英語習得の理論からいうと、先に受容能力を伸ばすことが大切で、それに続いて発信能力も伸ばしていけるようになります。
<町田智久先生のプロフィール>
国際教養大学専門職大学院教授。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校大学院で修士号(英語教授法)及び博士号(初等教育)を取得。
2022年度フルブライト客員研究員(ジョージ・メイソン大学)。
各地の教育委員会等と協働して教員研修を開発・実施。
近著に『小学校英語の考え方』(大修館書店)、『英語にぐーんと強くなる』(監修)(くもん出版)。
耳や目から入ってくる英語の情報を、「インプット(input)」と専門用語では呼びます。簡単に言えば「インプット=英語のシャワー」だと思ってください。聞こえてくる英語の音やイントネーション、文字の形や単語の様子(例えば「この単語は“th”で始まるんだな」など)、さらには英語の文の特徴(例えば「質問だから最後に“?”のマーク がつくんだ」など)がインプットです。いきなり「読む」ことはできませんから、まずは英語を「見る」ことで十分です。英語を学習し始めた子どもたちは、この英語のシャワーをたくさん浴びることが最も大切です(下図参照)。
<インプット重視の学習>
十分なインプットがなければ、アウトプット(発信)はできません。私がよく言う話ですが、花にじょうろで水をやる時、まずはじょうろに水をたくさん入れます。それと同じで、英語でアウトプットしようとするなら、まず十分なインプットが不可欠です。空っぽのじょうろを振っても水が出ないように、インプットがなければアウトプットはできません。また、インプットは「理解可能なインプット」であることが大切です。小学生にいきなりアメリカの英語のニュースを聞かせても、意味が分からなければ雑音になってしまいます。だからといって、全て分かるものを聞いても仕方ありません。英語教育の研究者は「たくさんの絵や写真、実物教材、ジェスチャー、ティーチャー・トークなどを使って、子どもたちがインプットを理解できるようにしていきましょう」(*1)と言っています。つまり、何となく分かる題材を使い、ヒントを活用しながら見たり聞いたりすることが大切なのです。これは私たちが日本語でも日常的に行っていることです。新聞を読む時は写真や見出しを手掛かりにしますし、資料を見ながら誰かの話を聞くことはよくあります。英語の学習でも同じように、ヒントを活用しながらインプットを理解することが大切なのです。
小学校の教科書を見ても、各単元は英語を聞いたり単語や表現を見たりするインプット活動から始まっています。そして学習を進めていくと、話したり書いたりするアウトプット活動に移っていくように構成されています。また、最近の教科書には二次元コード が付いていて、自宅でも何度も音声を聞けるようになっています。英語のシャワーを浴びるチャンスですから、ぜひくり返し聞いてみてください。
そして、英語を学習するときは、同じ教材を何度も聞いたり読んだりすることが重要です。人間はコンピュータではないので、一度覚えたものでも忘れてしまいます。そのため、同じ英単語や表現に何度もくり返し出合えるような「スパイラルな学習」が欠かせません。秋田県のある小学校では、英語の授業で毎週読み聞かせをしています。先生が同じ本を1か月読んで聞かせるだけですが、子どもたちは自然にフレーズを覚えてしまっています。そして月末には、子どもたち同士でその本の読み聞かせをしています。このように、くり返して学習することで、十分なインプットとなり、自然にアウトプットにつながるのです。
<注>
*1:Shin, J. K., & Crandall, J. (2014). Teaching young learners English: From theory to practice. National Geographic Learning.(p. 40)