第5回 保護者に求められる英語学習のサポート

皆さん、こんにちは。今回は、英語学習をする子どもたちを支える保護者に求められる心構えや声掛けについてお話しします。親であれば、誰しも子どもたちには「楽しく学んでほしい」、「良い成績を取ってほしい」と思うものです。しかし、ついつい不十分なところに目が行ってしまい「ちゃんと〇〇しなさい」と言ってしまいがちです。一生懸命に子どもたちを思えば思うほど、客観的にそして冷静にアドバイスすることは難しいです。

<町田智久先生のプロフィール>
国際教養大学専門職大学院教授。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校大学院で修士号(英語教授法)及び博士号(初等教育)を取得。
2022年度フルブライト客員研究員(ジョージ・メイソン大学)。
各地の教育委員会等と協働して教員研修を開発・実施。
近著に『小学校英語の考え方』(大修館書店)、『英語にぐーんと強くなる』(監修)(くもん出版)。

私は昨年、アメリカの大学に研究留学した際、学生に交じってスポーツ・コーチングの授業を聴講しました。自分の専門(英語教育)とは違う分野を学ぶことで、新たな研究の視点を得られると思ったからです。その授業で最も学んだことは、「選手とコーチは別の人格であり、選手は必ずしもコーチの思うようなステップで成長していくわけではない」ということです。当たり前のことですが、選手に対する思い入れが強いと、この当たり前のことを見落としてしまいます。この考え方は、教育にも通じると思います。保護者が思うスピードやペースで、子どもたちの英語能力が高まっていくわけではありません。また、保護者がベストだと思う学習方法が、必ずしも子どもたちに適しているわけでもありません。まず、この考え方を受け入れることができれば、子どもたちを叱る回数が減りますし、優しく成長を見守れるようになります。

次に、子どもたちの英語学習を支える際の、具体的な心構えや声掛けについてみていきます。1つ目は「場面を伴って話すように促す」です。保護者は「今日覚えたフレーズを言ってみて」と尋ねることもあると思います。まずは、子どもたちがE-Pencilで十分なインプットを受け、発音練習をした上で、自信をもって言う準備ができているかを確認しましょう。その上で、子どもたちが発話をする際は、場面を伴わせてください。発話の場面と表現が一致していることが、習得には欠かせません。例えば、D教材であれば朝食を食べながら“I eat bread.” と言うことで、表現も身につきやすくなります(下図参照)。

<公文式英語教材:D教材 102番 I eat rice.>

「公文式英語教材の一覧」https://www.kumon.ne.jp/kyozai/eigo/sample/index.html

2つ目は「型を教えようとしない」です。「コミュニケーションは、言葉のキャッチボール」と多くの人が言っています。しかし、実際には型にはめたキャッチボールで、楽しいコミュニケーションをつまらなくしている例に出合います。ある小学校の授業で、誕生日を英語で尋ね合う活動がありました。ある児童が友達に尋ねる際に、緊張してか途中で忘れてしまい、“When …. …birthday?”と言いました。すると教師が「〇〇さん、“When is your birthday?” でしょ。」と注意し、その児童は悲しそうに「はい」と言って黙ってしまいました。もし本当にキャッチボールであれば、どんなボール(表現)でも相手に届けばよいのです。相手に“When …. …birthday?” と言われれば、誕生日を尋ねられていることはわかります  。その際に、“November 8th”(11月8日です)と、まずボールを受け取って答えてあげましょう。その上で「じゃあ、次は答えてね。“When is your birthday?”」と尋ねることで、子どもたちは楽しみながら、自信をもって次回からはより正確に質問できるようになります。英語学習はブロックを積み上げるようにはいきません。最初は完璧を目指さず、楽しみながら何度も親子でキャッチボールをしていきましょう。

3つ目は「E-Pencil通りに言えるかチェック」です。英語学習を始めた子どもたちに大切なのは、一つひとつの発音ではなく、英語のリズムやイントネーションを身につけることです。英語は日本語と違い、強弱でリズムを作っています。それぞれの単語の中には強く読む音(強勢:ストレス)がありますし、文の中にもストレスが来る単語があります。文の最後も、音が上がったり下がったりしています。それらをE-Pencilで聞いて、まねするように子どもたちに伝えてください。E-Pencil通りに言えるようになれば、英語のリズムが身につき、自然と伝わりやすい発音になりますし、聞く力も伸びていきます。

最後は「英語学習の伴走者になる」です。保護者の皆さんは、学生時代の英語学習を覚えていますか。忘れてしまった単語や表現もあると思いますが、それで構いません。英語学習の先輩として、自分の経験を子どもたちに伝えてください。「それ習ったけど、難しいよね」や「一緒に言ってみようか」など、子どもたちと一緒に英語学習の道を走ってみませんか。間違うこともあるかもしれません。しかし、子どもたちと一緒に楽しく英語を学ぼうという気持ちでいれば、お子さんたちは安心できるのです。親子といえども、親の思い通りに子どもは動きません。まずは別の人格と理解した上で、英語学習の伴走を楽しんでみましょう。子どもたちが安心して、そして楽しんで学んでいる様子を見られることが、実は保護者にとっては最も幸せなことなのだと私は感じています。