皆さん、こんにちは。ご愛読いただいた連載も最終回です。今回は、これまでに私が実施した英語研修や教員研修の中で、参加者の方々から多くいただいた質問と、それに対する回答についてお話します。研修では、英語と国語の学習や、英語の学習方法に関する質問をよく受けます。その回答が、保護者の方々がお子さんの英語学習をサポートする際のヒントになり、子どもたちの今後の英語学習につながればなと思っています。
<町田智久先生のプロフィール>
国際教養大学専門職大学院教授。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校大学院で修士号(英語教授法)及び博士号(初等教育)を取得。
2022年度フルブライト客員研究員(ジョージ・メイソン大学)。
各地の教育委員会等と協働して教員研修を開発・実施。
近著に『小学校英語の考え方』(大修館書店)、『英語にぐーんと強くなる』(監修)(くもん出版)。
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Q1:いつから英語学習を開始するのがいいの?
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近年、世界各国で英語教育開始の早期化・低年齢化が進んでいます。日本は2020年から正式に小学校で英語教育が開始(教科化)されました。しかし、他のアジア諸国に比べ、約20年遅れのスタートでした(韓国は1997年に開始、台湾と中国は2001年に開始)。
各国での早期化・低年齢化の理由としては、①教育や就職のための英語の有用性、②早期の言語学習のメリット(*1)などが挙げられます。日本国内でも、独自のカリキュラムを組んでいる公立・私立学校を中心に、小学校低学年から英語教育を導入している学校や、幼稚園からイマージョン教育(英語による教育)を実施しているところもあります。実際に早期英語学習の教室を見てみると、とても楽しそうです。英語の歌や読み聞かせを中心に、新しい音(発音)や表現に興味をもち、子どもたちは楽しんで学習しています。大切なのは学習内容です。発達段階に応じた身近な話題を扱った学習内容であれば、子どもたちは楽しんで学ぶことができます。
逆に、幼稚園生に単語をたくさん暗記させたり、文法を教えたりすることは効果がありません。そのため、発達段階に応じた適切な学習内容を学ぶのであれば、いつ英語学習を始めても構いません。つまり、開始時期に早すぎることも、遅すぎることもないということです。
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Q2:国語の学習をしてから英語学習を始めるのがいいの?
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以前のように中学生から英語学習を始めたり、大人になってから外国語学習を始めたりする場合は、日本語の学習経験を生かして進めることができます。文の構造も理解できますし、文法用語(主語、動詞、形容詞など)もわかります。そのため、ある程度、国語(日本語)の学習が進んでから英語学習を始めた方がよいと考える人もいるかもしれません。
しかし、英語学習は英語の言語構造を学ぶのではなく、英語をコミュニケーションの道具として使えるようにすることがゴールです。それならば、なるべく長い期間、そして様々な機会に英語に触れることで、英語のインプットを多く受ける必要があります。早い時期から英語を学習する子どもたちは、日本語の学習と同時並行で英語学習をすることになります。これは一見大変なようですが、実は子どもたちの表現を膨らませ、また多様な視点を与えてくれます。先日、アメリカのラジオ番組を聞いていた時、ドーナツ屋さんのコマーシャルが流れて、
“Coffee and donuts need each other.”(直訳:コーヒーとドーナツはお互いに必要です)と擬人化して言っていました。これは、日本語の発想には多分ないと思います。日本語の発想だと、
“Donuts are essential for coffee.”(コーヒーにはドーナツが欠かせません)と言うかもしれません。意味は同じです。英語を通して、新しいものの見方や考え方を取り入れることは、母語の発達も助けてくれます。
実際に、母語に加えて外国語を学習した子どもの方が、母語だけを学習する子どもよりも、言語能力が発達し(*2)、学習能力が高い(*3)という研究もあります。英語学習を通して、新しいものの見方や発想を身につけることは、子どもたちの21世紀型スキルを伸ばすことにつながります。そのため、あまり学習の順番にこだわる必要はありません。子どもたちが多様な見方や考え方ができるように、サポートするのがよいと思います。
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Q3:効果的な英語の学習は何?
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もちろん、4技能のどの技能を伸ばしたいのか、また現在の習熟のレベルはどの程度なのかにより学習方法は違うので、一概にこれがベストですという方法はありません。ただ、これまでも連載の中で述べてきたように、インプットを十分に受け、それをアウトプットにつなげる活動はすべての学習者に有効です。そこで、公文式英語教材を使って学習している子どもたちに、学習した教材を使って手軽にできるプラスαの学習方法を紹介します。 余裕があれば、現在の学習に取り入れてみて下さい。用意するのは、現在学習中(または学習済み)の教材とE-Pencilです。
次の4つのステップで進めてください。「①E-Pencilで文章を聞く→②E-Pencilで1文ずつ止めながら後について言う→③E-Pencilと一緒に言う→④E-Pencilでシャドウイング する」です。まず、①のステップは、教材を見ながら、英語の発音やイントネーション、さらにはストレス(強勢)に注意して英語をよく聞きましょう。1度だけではなく、何度も聞くことが大切です。②のステップでは、英文を見ながら言いづらい表現や単語に注意して、スラスラと言えるようになるまで続けます。③のステップでは、英文を見ながらE-Pencilに遅れないように言います。正しいイントネーションやストレスで言わないと、E-Pencilの音声と一緒に最後まで言うことができません。自信をもって言えるようになるまでくり返しましょう。④のステップでは、英文を見ずにE-Pencilの音声に一瞬(1秒位)遅れて英文を言います。目を閉じておこなっても構いません。
この学習方法を続けることで、英語の音の特徴を理解できるようになります。また、発音も良くなりますし、英語のインプットが増え、自然と英文が口から出てくるようになります。これは、保護者の方にもおすすめ の学習法 なので、お子さんの教材を借りて取り組んでみてください。
以上、6回にわたり新しい英語教育や子どもたちの学習方法などについてお話をしてきました。少しでも子どもたちが楽しく英語を学べるようになり、保護者の方々が自信をもって 英語教育を語り、お子さんをサポートできるようになれたのであれば幸いです。英語学習は苦しい修行ではありません。新しい文化や価値観に出合える 楽しいものです。お子さんが楽しみながら英語を学べるサポートを、ぜひ続けていってください。
<注>
*1: Shin, J. K., & Crandall, J. (2014). Teaching young learners English: From theory to practice. National Geographic Learning.
*2: Silven, M., & Rubinov, E. (2010). Language and preliteracy skills in bilinguals and monolinguals at preschool age: Effects of exposure to richly inflected speech from birth. Reading and Writing, 23, 385–414.
*3: Taylor, C., & Lafayette, R. (2010). Academic achievement through FLES: A case for promoting greater access to foreign language study among young learners. Modern Language Journal, 94, 22–42.